この世界の片隅に より © こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
こんにちは
楽しくないと生きていけない
がんべあです
今回は「この世界の片隅に」のストーリー構造を13フェイズ理論を使って分析いたします
「この世界の片隅に」の物語構造
沢山ある「物語パターンの一つ」として「13フェイズに従った物語創り」というものがあります
「この世界の片隅に」もこの方法に従って創られています
基本的な13フェイズの流れは以下の通り
【13フェイズのストーリー構成】
【第1幕】(対立)
①【日常】主人公の日常、抱えている「問題」
②【事件】事件の発生、日常から引き離される
③【決意】新たな状況へ飛び込んでいく決意
【第2幕】(葛藤)
④【苦境】新たな状況での様々な苦境
⑤【助け】苦境に陥った主人公に助けが現れる
⑥【成長・工夫】助けを得た主人公の成長・工夫
⑦【転換】成長による成果、中盤の盛り上がり
ここまでが前半
⑧【試練】後半は助け無し、主人公は単独で試練に立ち向かう事に
⑨【破滅】主人公の頑張りも届かず状況は一層悪化、破滅が襲います
⑩【契機】破滅を乗り越えるきっかけを掴む主人公
【第3幕】(変化)
⑪【対決】敵との最終対決
⑫【排除】敵を排除
⑬【満足】主人公の抱える問題の解決
物語の構成には色々な方法がありますが、「王道の感動」ができるのはなんと言ってもこの13フェイズで創られたお話だと私は思っています
では13フェイズ理論によってお話を追いかけてみましょう
第①フェイズ【日常】
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昭和初期の村 カモメやサギが飛び交う海沿いの小道、道端にはのりが干してある
その中を歩く風呂敷包みを背負った幼い主人公のすずさん
途中で乗せてもらった小舟の中で財布の中身の十銭硬貨を眺めながら物思いにふける 静かだが実に楽しそう
すずさんは空想するのが好き、それを絵に描いて妹のすみちゃんと笑い合うが、その他の人とのコミニュケーションは苦手、内気な性格
※13フェイズに従った物語の作りかたでは最初に主人公の問題点を描きます
「他人とコミュニケーションを取るのが苦手」それがすずさんの問題点
第②フェイズ【事件】
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すずさんに隣街の呉から縁談が舞い込む
すずさんの日常に事件が起こり、物語が進み始めます
第③フェイズ【決意】
嫁ぎ先の呉から一時実家に帰郷したすずさん
そこにはもう自分の居場所はなかった
広島の街の風景をスケッチブックに描きながらしっかりとした口調で静かに呟く
すず:「さよなら…さよなら広島」
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事件に飛び込む決意を表すすずさんの様子が描かれるのがこのフェイズ
物語上でとても大事な転換点となります
第④フェイズ【困難】
呉での生活の心労で出来たハゲを気にしてふさぎ込むすずさん
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戦時下で配給が減った中、一家の主婦として鰯の干物四匹で一家四人の三食分の食事を作らないといけない
事件に飛び込む決意をしたすずさんには困難が待ち受けています
第⑤フェイズ【助け】
【ハゲを気にする主人公すずさんを夫の周作や姪の晴美ちゃんが励ましてくれる】
周作:「すずさん 気にしよったらハゲはよけいひどうなるで」
すず:「バレてましたか・・・」苦笑いのすず
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母におねだりする晴美ちゃん
晴美:「ねえー 筆貸してえ! すずさんの頭に墨ぬってあげるのん」
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その光景を見て笑ってしまうすずさん
【配給が減ってどうしていいのか分からないすずさんに近所の奥さん仲間が食べられる野草や調理の工夫を教えてくれる】
すず:「これぞ楠木公ゆかりの楠公飯!!」
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すずさんを襲う困難、とても一人では乗り越えることができません
そんなすずさんに助けが現れる様子を描くのが第5フェイズ になります
第⑥フェイズ【成長】
建物疎開で義理の姉径子とその娘晴美が家にやってくる
ありさん事件などを通じて晴美ちゃんと仲良くなる
憲兵隊とのトラブル、家族みんなで笑い合う
すずさんに対して最初はトゲトゲしかった径子さんともだんだんと打ち解け合えるようになっていく
遊郭でリンさんと出会い友達になる
周作さんとのデート、二人の絆が強まる
どんどん成長していくすずさん
幼馴染の哲がすずさんの元へ来る
哲:「ほんまに連れて帰らんでええんか?無理に嫁にされて困っとてん違うか」
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首をふるすずさん
哲:「ならええ はは」
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周りの助けのおかげで成長するすずさんの姿が描かれます
第⑦フェイズ【転換】
すずさんと周作さんの電車の中での痴話喧嘩
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私の大好きなシーン、このままエンディングになっても満足
しかしこの第7フェイズで物語は大きく転換します
ここまでが前半パート
物語前半は「周りの助け」によって成長できたすずさん
しかし物語後半ではすずさんは「周りの助け」無しで一人で成長していかなくてはなりません
この構成が13フェイズを使った物語作成の大きなポイント、転換点がこのフェイズとなります
第⑧フェイズ【試練】
呉の町にアメリカ軍の空襲が始まる
すずさんは空襲によって右手と晴美ちゃんを失う
ようやく少し打ち解けてきた義姉の径子さんに「人殺し」と罵られる
右手を失った事で家事もままならず、居場所がなくなるすずさん
(「さらにいくつもの片隅に」ではこれに加えて夫の周作さん、友達のリンさんへの信頼も崩れていきます)
誰も頼る事ができないすずさん
妹のすみちゃんに「広島に帰ろう」と誘われ、心が揺らぐすずさん
この世界の片隅に より © こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
誰の助けも得られず一人すずさんは困難に直面します
すずさんの本当の成長が試されるのが後半の物語
第⑨フェイズ【破滅】
アメリカ軍の戦闘機が地上に向かって機銃を撃ちまくる中、避難した用水路で夫の周作さんと喧嘩となります
そこですずさんは決定的な言葉を発してしまうのです
すず:「帰る!広島へ帰る!」
周作:「おおそうか 勝手にせえ!!」
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困難に立ち向かうすずさんに抗いようもない破滅が襲います
この第9フェイズでの破滅が深ければ深いほど物語は盛り上がります
第⑩フェイズ【契機】
すずさんが「絶対的な破滅」から抜け出す為のきっかけとなる出来事が起こります
すずさんが広島に帰る当日
縁側で経子さんとの会話
経子:「すずさんの居場所はここでもええし どこでもええ くだらん気兼ねはなしに 自分で決め」
すず:「・・・・」
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表の方が明るく輝く
遠くから叔母の声「経子ちゃん 今、なんか光ったかね?!」
経子:「光ったあ」
経子:「雷じゃろうか ええ天気のに・・・」
すず:「あの・・・やっぱりこれ・・・洗うてもらえますか?」
すず:「ほいでやっぱり ここへおろしてもらえますか?」
経子:「わかった!わかったけえ 離れ!暑苦しい!」
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どう仕様もない破滅、暗闇の中、すずさんは一筋の光明を見出します
それは絶体絶命、真の暗闇の中だからこそ見つける事ができた小さな灯り
第⑪フェイズ【対決】
はるか上空を飛ぶB-29から伝単が撒き散らされ、すずさんの目の前にもヒラヒラと降ってくる
すず:「そんとな暴力に屈するもんかね」
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次のシーン:すずさんと周作さんとの会話
周作:「すずさん 米軍の伝単は拾うたら届けんと また憲兵さんに叱られるで」
すず:「届けても燃やしんさるだけです こうしてもんで落し紙にする方が無駄がのうてええ」
周作:「ごもっとも じゃがとうぶん便所は人に貸せんのう」
すず:「何でも使うてくらしつづけるのがうちらの戦いですけん」
周作:「ふーん」
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一筋の光明を見出したすずさんは戦いに挑みます
すずさんの戦いは「くらしつづけること」
第⑫フェイズ【排除】
終戦を告げるラジオを聞くすずさんと近所のみんな
すずさんは自分の想いをみんなの前で叫びます
すず:「そんなん覚悟の上じゃないんかね 最後ひとりまで戦うんじゃなかったんかね?」
すず:「今ここにまだ五人おるのに まだ左手も両足も残っとるのに・・・」
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すずさんは「自分の感情」をみんなの前で表すことができるのです
第⑬フェイズ【満足】
戦争は終わったが、日々の生活は続く
食料調達に出かけるすずさんと近所の刈谷さん
道中、すずさんは刈谷さんに自分の気持を話します
すず:「晴美さんはよう笑うてじゃし 晴美さんのことは笑うて思い出してあげよ思います この先ずっと うちは笑顔の容れもんなんです」
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※右手の歌、お母さんを失った孤児を引き取るシーン、その他色々ラストのどのシーンも大好きなのですが、何度か見返している内に「最後の刈谷さんとの会話」が気になり出しました
物語を通じてずっと心の声・独り言ばかりだったすずさん
しかしこの時は自分の想いを「はっきり」と言葉に出して刈谷さんに伝えています
すずさんの成長をしみじみと感じさせられるとてもいいシーン
それに気付いた時、思わず目頭が熱くなってしまいました
13フェイズの大きなポイント
それは「主人公の問題点が物語を通じて解決される事」
第1フェイズで示されたすずさんの問題点は「他人とコミュニケーションを取るのが苦手」な事
この問題点が最後の第13フェイズで無事に解決され、観客は「満足」を得られます
この構成が13フェイズのキモだと思います
今回はここまで
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